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東京高等裁判所 昭和36年(う)1567号 判決 1961年11月16日

控訴人 原審検察官

被告人 吉田篤

弁護人 福井盛太

検察官 原長栄

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四月に処する。

原審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は東京地方検察庁検事正代理検事山本清二郎作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるからここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。

論旨第一について。

原判決が、犯罪事実として、公訴事実第一すなわち無免許運転及び酩酊運転の事実を引用し、前者につき道路交通法第六十四条第百十八条第一項第一号を、後者につき同法第六十五条第百十八条第一項第二号を適用し、右各本条の外に、同法第百二十二条第一項を適用していないことは所論のとおりである。

所論は、本件は酒気帯び無免許運転の事案であるから、前記各本条の外、同法第百二十二条第一項をも適用すべきであるのに、これを適用しなかつた原判決は、法令の適用を誤り、理由のくいちがいがある旨主張する。しかしながら同条第一項は、「車両等の運転者が、第百十八条第一項第一号(中略)の罪を犯した場合において、酒気を帯びていたときは、各本条に定める刑の長期又は多額をこえて処断することができる。云々」と規定しているのであつて、その文言自体に徴し、同条を適用するや否やは裁判所の裁量に委ねられていることが明白である。

そして原審は、本件につき、各本条に定める懲役刑の長期の範囲内で処断するのを相当と認め、あえて右第百二十二条第一項を適用しなかつたものと認められるから、原判決に所論のような違法は存しない。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 渡辺辰吉 判事 司波実 判事 小林信次)

山本検察官の控訴趣意

第一、理由のくいちがいについて

原判決は公訴事実通りの事実を認定しながら、検察官が起訴状に示した罰条中道路交通法第一二二条第一項を適用していない。その理由は明らかでないが、原判決認定の第一の事実は、いわゆる酒酔い運転(道路交通法第一一八条第一項第二号)及び無免許運転(同法第一一八条第一項第一号)の外、酒気帯び無免許運転の事実(同法第一二二条第一項第一一八条第一項第一号)があつて、このうち無免許運転は酒気帯び無免許運転に吸収され、後者のみが残るものと考える。起訴状の罰条の記載は正確を欠くのであるが、同法第一二二条第一項第一一八条第一項第六四条を挙げたのはその趣旨である。然るに原判決は吸収されるべき単純無免許運転の罰条のみを掲げ、肝心の酒気帯び無免許運転の罰条を掲げていないのである。これは法令適用の誤といわなければならない。その結果は法定刑の最高限を異にすることとなるので、その誤は判決に影響することの明らかなものというべきである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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